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無罪確定! 大阪地裁所長オヤジ狩り事件    弁護士 戸谷 茂樹

 
 平成20年のメーデーは、とりわけ記憶に残る日となった。何しろ、4年かかりで取り組んできた大阪地裁所長オヤジ狩り事件の成人二人について、大阪高裁の無罪判決が確定した日となったからだ。
 平成16年2月16日午後8時35分頃、大阪市住吉区で、折から帰宅中の当時の地裁所長が、少年らしき4人組に襲われて6万3000円を奪われ、入・通院約3ヶ月の重症を負った。強盗致傷事件は、最低刑が当時でも5年以上の重罪(今は6年以上の懲役刑)である。本件でも求刑は懲役7年であった。
 大阪府警は、現職の地裁所長が被害者となったこの事件の犯人検挙のため組織を挙げて取り組んだ。しかし、捜査は難航して、多くの少年らが容疑を受けて補導・逮捕され、その自白から成人二人も逮捕された。功を焦った警察は、防犯ビデオに映った犯人らの、少年らしき映像との矛盾をよそに、極めて大柄の藤本敦史くんと黒幕として岡本太志君の成人二人も逮捕した。しかし、身に覚えのない二人は、厳しい取り調べにも否認を貫いた。これは、本人の頑張りと、早くから弁護人がつき適切な支援が出来た結果であった。
 当番弁護士として岡本君の弁護人となった私は、逮捕直後の岡本君を励まし、被疑者ノートを差し入れて、20日間の勾留期間中、接見を重ねた。そして、岡本君らは否認のままで一審裁判中、8ヶ月も勾留されて、弁護人以外の者との接見も禁止されたが、頑張り抜いたのであった。
 一審の地裁では、当初、所長を襲った犯人は一日も早く有罪としたい風であったが、途中から大きく風向きが変わった。幸運にも、検察側も犯人が映るという防犯ビデオの鑑定によると、犯人の画像は藤本君の身長にそぐわず、さらに実行行為者の当時13才の少年の携帯メールの時刻や内容から、そのアリバイが立証出来たからである。
 地裁判決(平成18年3月)では、少年らの供述調書記載がいかに詳細で迫真性に満ちていても、それだけで有罪とすることの危険性を指摘して、完全無罪の判決を言い渡した。法廷での岡本太志君の涙が印象的であった。
 ところが、家庭裁判所で審理を受けた少年らの審判で、有罪の結論が出たこともあり、検察官が控訴をして、さらに審理が続いたのであった。控訴審では、検察官は、ビデオの鑑定結果を争い、一審判決を攻撃したが、それだけで有罪の立証となる筈もなく、控訴審も無罪となった。そして検察は上告を断念して確定したのだ。(少年らの無罪が確定するのも、遠くないことであろう。)
 「無辜の人には無罪を」というのは余りにも当然であるが、一旦、警察、検察から容疑を受けると、それをはねのけ、裁判所で無罪を得るのは実に容易ではない。本件でも、警察は、犯人検挙の功を焦り、ひたすら有罪方向での捜査(=少年らの自白獲得)に力を注ぎ、無罪方向の客観証拠の検討が決定的に不足した。「捜査の常道」を履践せず、少年らの自白を強要して、無罪方向の証拠をあえて無視さえして、犯人に仕立て上げたのである。
 裁判の結果、本件では幸い無実となったが、もし有罪とされるなら無実の人が長期の懲役刑を余儀なくされていた。その悲劇を思うと、改めて弁護士の責任の重さが身にしみる。
 そして、藤本君や岡本君が、これからも冤罪事件の支援の活動に参加したい、と言って呉れているのを心から喜んでいる。
 こうして、私にとって忘れられない事件となった。
 
 ところで、平成21年から導入される裁判員制度(別項参照)のもとでは、裁判員の負担軽減のために、審理の迅速化のみが追求される傾向があり、冤罪を出さない工夫が乏しい。つまり、虚偽自白を排除するための工夫が是非とも必要であるのに、取調べ可視化や弁護人の立合権の保障が進まぬまま、裁判審理のみが急がされると、冤罪が見えないままとなるおそれがある。
 司法制度の改革はまだまだこれからなのである。

 

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