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国民参加の裁判員制度は実現するか  
  
                   弁護士 戸谷 茂樹

今、裁判所ばかりか、検察庁まで、来年5月から実施されることが決まっている裁判員制度のPRに必死です。弁護士会でも、弁護士に対して、裁判員制度が導入された場合の弁護活動について「研修中」です。
 それでも、裁判所の調査でもマスコミの世論調査でも、裁判員にはなりたくない人が過半数を大きく超え、極めて評判が悪いのは、何が問題だからなのでしょう。果たして、日本では裁判員制度は成功するでしょうか。
 裁判員制度とは、簡単にいうと、重大な一定以上の刑事事件について、裁判官3人と選挙人名簿から抽選された素人の6名裁判員の合計9名が多数決により、被告人が有罪か無罪かを決め、さらにその刑の程度も決めるという画期的な制度です。
 しかし、別に仕事を持つ国民が長期間の裁判にはとても参加・出席できないとか、死刑判決をも下すという責任の重さから、裁判員にはなりたくない、という意見が出るのももっともです。裁判員になった人には、企業が休暇を保障する責任があるとか、一定の日当を支払うとかの工夫もしているのですが、一定の場合以外には拒否出来ない国民の義務(=拒否すると処罰がある)とするのですから、なりたくないと議論を呼ぶのも当然でしょう。
 しかしながら、国民が主権者・主人公であるとする「国民主権」の考えからすると、国民が政治に参加する選挙と同じく、裁判にも国民の参加を保障するのは、民主的な考えに連なる制度です。国民が裁判に参加することで、より国民としての義務や権利を自覚することにもなります。
 また、疑わしいだけでは処罰すべきではない、本当に有罪の人だけ処罰するためには、専門家の目だけで判断せず、多様な国民・市民の意見や判断を取り入れることが必要だとする考えには、正しい契機があります。欧米で見られる陪審制度もこのような考えによるものです。
 そこで私自身は、国民参加の裁判員制度を実施して見て、よりよい制度に仕上げるべきだと思っています。
 欧米の陪審制の多くが有罪か無罪かのみ決め、また、陪審制によるかどうかを被告人が選択出来る制度となっているのに、日本の裁判員制度ではそのようになっていないことが、一番の問題だとする意見があります。これは傾聴すべき意見です。
 しかし、一番の問題点は、国民が参加するから裁判に時間をかける訳にいかない、せいぜい2ないし3回の審理で終了させる必要があるとして、ひたすら裁判の審理を急ぐ方策(公判前整理手続、期日間の整理手続や、公判証拠の簡略化や制限など)のみを追求しようとしている点にあります。
 このような裁判員制度では、冤罪を主張する人の審理さえ、ひたすら審理を急ぐことになりかねません。これでは、何のための裁判員制度なのか、本末転倒したことになりかねません。
 その意味では、とりわけ誤判が許されず、制度としての批判もある死刑判決には、全員一致の原則を導入するべきでしょう。
 そして、日本の捜査の一番の問題である強引な自白追求型の捜査を今のまま放置しておいて、裁判になると結論を急がれては、無実を主張する人達は本当に救われないことになりかねません。
 実際には多くの重大事件で、有罪を自認する場合が多いので、大半の事件では心配をすることは無いと思いますが、無実を訴える人達の権利については、それを最大限に保障し、裁判を充実させるための方策をもっと導入する必要があります。
 当面考えるべきは、無実主張や捜査当局と対立する被疑者への支援策の充実です。その場合、全面的な捜査の可視化(全取調べ過程のビデオ録音)は勿論、弁護人立合権の保障、接見禁止措置の制限、捜査段階からの保釈制度の導入、さらに、証拠の全面的な事前開示と交付、さらには、弁護活動への援助制度の工夫などです。
 これらを保障せずに裁判員制度を導入するなら、私が担当した地裁所長オヤジ狩り事件に見るように、一度、自白の任意性を巡り対立すると、多数の証人調べが必要となり、その審理期間(一審で、二年弱。二〇数回の審理回数)に、裁判員がその負担に耐えられないこととなるでしょう。
 同事件では、検察側は、任意性立証のために、多数回・長時間に及ぶ警察官や自白少年らの公判証言を要求しました。
 これらは、捜査・取調べ過程を全面的に録画するなら、全部不要な証人調べとなります。それに、そもそも、少年らに対する強迫的、暴力的な取り調べなど出来ない結果、成人二人の逮捕もなかったことでしょう。
 このような捜査の構造が大きく改められて、はじめて、裁判員制度も日本に定着することになるでしょう。
 このように、私自身は、裁判員制度の導入は、裁判のあり方のみならず日本の捜査のあり方をも抜本的に変えることになる、とひそかに期待をしているのです。






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