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飛翔館高校教員解雇事件 
    弁護団声明 2011年7月27日
        弁護団一同

1 整理解雇・画期的逆転判決下される

平成23715日、大阪高等裁判所第3民事部(岩田好二裁判長)は、飛翔館高校整理解雇事件について、整理解雇を有効とした一審・大阪地方裁判所堺支部判決(山田知司裁判長)を取り消し、一審原告5名全員について解雇権を濫用したものとして無効とする逆転勝利判決を言い渡しました。

 大阪地裁堺支部判決は、整理解雇が解雇される労働者には落ち度がないのに一方的に重大な不利益を与える、いわば「最後の手段」であることを理解せず、学園による人件費の安い労働者への入れ替えを認め、協議や話合いをしても合意に至る見込みが少ない場合は協議していなくても解雇手続きが不相当とはいえないとして、原告5名のうち、1名のみについて人選の合理性がないとしただけで、残り4名の整理解雇は有効としていました。

 今般の大阪高裁判決は、整理解雇が労働者に及ぼす不利益の重大性に鑑み、「最後の手段」として、それが有効かどうかは、一般論として、@解雇の必要性があったか、A解雇回避の努力を尽くしたか、B解雇対象者の選定が合理的であったか、C解雇手続が相当であったかを総合考慮して、これを決するのが相当である」として、従来の通説・判例の見解を採用のうえ、上記@〜Cについて、それぞれ、丁寧に事実認定し、法的検討を加え、@ACの要件を満たしておらず、Bを検討するまでもなく、5名全員について無効としました。とりわけ、解雇が最後の手段との見地に立ち、解雇の必要性・相当性について綿密な事実認定をし、当事者との誠実な協議のない解雇を厳しく論難する点は、労働者の権利を正当に評価するもので、昨今の安易に整理解雇を認める裁判所の傾向を批判するものとして画期的です。 

2 整理解雇の必要性の判断のあり方について

 学園は、削減人数の算出方法として、「平成19年度という単年度の予算上の消費支出超過額を専任教員1人当たりの平均給与等で除する」という方法をとりましたが、「単年度」であること、「予算の数値」であること、「担当する教科を考慮せず、対処するための補正措置をあらかじめ織り込んで計画していないこと」「収支の均衡(採算性)は帰属収支によって検討するのが妥当と解されること」「整理解雇前に11名の退職が予定されており、財務状況は相当程度改善されると予測されたこと」等から、学園の上記計算方法は、合理性を肯定することができないとしました。

 また、採算性を悪化させた1つの原因として、整理解雇前である平成18年度の退職割増金の支払いを指摘し、退職勧奨によって資金繰りを一時的に悪化させながら、これを新たな事由として整理解雇をするのでは、人員削減が無責任、無計画なものであったとのそしりを免れないとしました。

 さらに、「人件費削減の方法として、人件費の高い労働者を整理解雇するとともに、他方では人件費の安いほぼ同数の労働者を新規に雇用し、これによって人件費を削減することは、原則として許されない」としました。そして、その理由は、「同程度の人件費の削減を実現するのであれば、人の入れ替えの場合よりも少ない人数の整理解雇で足りると解されるし、また、このような人を入れ替える整理解雇を認めるときは、賃金切り下げに容易に応じない労働者の解雇を容認し、その結果として労働者に対し賃金引き下げを強制するなどその正当な権利を不当に侵害することになるおそれがあるからである」としました。 

3 解雇回避の努力はどうあるべきか

 まず、「合理的な人員削減計画を策定することは、解雇回避努力の前提事項といえるところ、本件では、その前提事項が満たされていない」としました。

 次に、解雇前に予算と決算との差や11名削減の効果を検討した形跡がないことを指摘しました。

 さらに、労働組合が人件費削減策に応じる用意があると申し入れたことに対し、情報を独占している学園において財政再建策を提示しなかったことにつき、学園側の責任を認め、全体として、回避努力を尽くしたものとは直ちにいい難いとしました。 

4 解雇手続の相当性=協議を尽くすのが公序であること

 学園は、手続きとして著しく適正さを欠く不誠実な対応であったとし、相当性を欠く瑕疵があったとしました。

 すなわち、学園は、整理解雇の予定について、平成20226日まで明確に告知することはなく、その後も、解雇人数や人選基準を明らかにせず、解雇回避のための組合からの人件費削減の申入れに対しても対応しようとしなかったのであり、実質的な説明や交渉ではなく、結論のみの一方的な告知、通告に終始したというほかないとしました。

 そして、教員らの激しい抵抗については、学園のとった手続きが不適正であったことの裏返しと評することができるから、そのような教員らの行動の責任が教員らだけにあるとはいえないとしました。

 原判決は、協議進展の見込みが少ないことが予想された等を理由に、説明や協議をまったくしていなくても不合理とも断定し難いとしましたが、本判決は、「1審被告が、その財務状況を踏まえて人件費削減の必要性を訴えても、1審原告らあるいは本件組合との間で結局話し合いは平行線をたどった可能性も否定できないものと推測される。」としつつ、「しかし、そうではあっても、整理解雇を行う使用者は、組合ないし労働者との間で説明や交渉の機会を持つべきである。整理解雇のような労働者側に重大な不利益を生ずる法的問題においては、関係当事者が十分意思疎通を図り誠実に話し合うというのが我が国社会の基本的なルールであり、公の秩序というべきである。」としました。
 この行には、地裁判決に対する高裁の怒りさえ見てとれます。 

5 学園は不当な上告へ

 私達弁護団は、大阪地方裁判所堺支部の不当判決を覆すため、原告・支援者のみなさんと力をあわせ、控訴審に全力で取り組んできました。

 今般、「人の入れ替えは認められない」「労働者や労働組合と誠実に話し合うことが我が国社会の基本的なルールであり、公の秩序というべきである」という、原審裁判所の許しがたい誤りを正す判決を得ることができました。

 学園は、判決後も、原告らや本件組合との話合いを拒否し、本判決を不服として、平成23年7月25日、上告・上告受理申立てを強行しました。

 私達弁護団は、本判決の早期確定をめざすとともに、原告全員の職場復帰を勝ち取るべく、引き続き全力を尽くす所存です。多くの方のご支援を心から訴えます。 


★平成24年3月21日、最高裁判所第二小法廷は本件上告を棄却し、上告審として受理しないとの判断を下し、大阪高等裁判所での判決が確定しました。

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