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いま裁判所で何が
〜ノーモア・ヒバクシャ訴訟、大阪高裁連続逆転敗訴の背景と課題〜
 
                 
        弁護士 愛須 勝也

1 原爆症認定集団訴訟とノーモア・ヒバクシャ訴訟の到達点

 2003年4月17日に始まり、全国17地裁、原告306名で争われた原爆症認定集団訴訟は、2009年8月6日、麻生総理大臣と日本被団協の間で締結された「原爆症認定集団訴訟の終結に関する基本方針に係る確認書」(いわゆる「8・6合意」)締結により、終結合意に至った。その内容は、1審判決を尊重し、勝訴原告については控訴せずに判決を確定させ、控訴事件については控訴を取り下げる、係争中原告については1審判決を待ち、敗訴原告については基金を作って救済する、厚労大臣と被団協・原告団・弁護団は、定期協議の場を設け、「今後、訴訟の場で争う必要のないよう」定期協議の場を通じて解決を図るというものであった。

 3回にわたり、認定基準を改定させ、ほとんど認定されなかった入市被爆・内部被曝の人体影響を認めさせ、認定者も大幅に増えた。行政訴訟としては異例の32勝1敗という画期的な成果を生んだ。何よりも、被爆後70年を経ても放射線の影響に苦しみ続けるという原爆の非人道性を明らかにしたという点でも画期的な成果を収めた。

2「新しい審査の方針」改定

8・6合意に基づいて、基金法が制定され、「原爆症認定制度の在り方に関する検討会」が設置された。被団協の坪井直代表、田中熙巳事務局長をはじめとする有識者による合計26回にわたる審議が続けられた。

ところが、国は、8・6合意を機に審査方針を根本的に変えた。訴訟回避のために滞留させていた申請を一斉却下した。そして、検討会の報告書を受けて、2013年12月16日、それまでの「新しい審査の方針」を手直しするに留めて基準を改定した。

被爆者は再び処分取消を求めて提訴せざるを得ない状況に追いやられた。国が合意を守らない以上、訴訟の場で争うしかないということで、全国7地裁(東京、名古屋、大阪、岡山、広島、長崎、熊本)に119名の原告が提訴したのがノーモア・ヒバクシャ訴訟である。近畿訴訟では、現在、地裁で13人、高裁6人、最高裁2名の合計21名の原告が係争中である。

3 後の被告国の猛烈な巻き返し

 国は、集団訴訟の敗訴を全く反省することなく、援護法の趣旨を無視し、集団訴訟の中で明らかにされた残留放射線や内部被曝による影響や、原告らの疾病の放射線起因性を徹底的に争って来た。とりわけ、基準改定以降の巻き返しは凄まじい。国は、新基準を、救済のために政策的に広げたに過ぎないと強弁し、これを金科玉条のものとして、外れる申請は、「現在の科学的知見の到達点に照らして、放射線起因性を認めるべき科学的根拠は乏しい」と切り捨て、疾病は、喫煙や高血圧などの生活習慣病、加齢によるもので、放射線ではない「他原因」によるものだと強弁し続けた。

 ノーモア訴訟になってからも勝訴判決を重ね、基準改定後の2014年3月20日にも原告全員の勝訴判決を得た。ところが、新基準から外れる原告1名について、合意の趣旨を踏みにじり控訴した。その結果、原告は、喜びもつかの間、認定証を受けることなく亡くなった。私は原告の担当弁護士として非人道的控訴を許せない。

この方針は国の訴訟方針のスタンダードになった。新基準から多少ずれる敗訴は甘受し、大きく外れる原告に絞り込んで控訴をして、攻撃を集中してきた。その後も、大阪地裁で勝訴判決を得たが、1名のみ控訴された。

 国は、控訴審で、35名もの医師・科学者の連名で、「原爆法認定訴訟において、UNSCEARなどの国際的な科学的知見とかけ離れた判断がされて放射線の人体影響に対する誤った知識が広まることを危惧する」旨の意見書を出してきた。これは、文書の半分以上が、記名・押印欄といった特異なもので、官僚が作文して御用学者に押印を迫ったものであることは明らかであった。

 このような政治的文書が出された背景には、2011年3月11日の東日本大震災で引き起こされた福島第一原発事故があることは明らかである。

 全面解決を期待させた認定行政の抜本改革について急ブレーキをかけたのは原発事故にある。この意味でも、ノーモア・ヒバクシャ訴訟は原爆被爆者だけの裁判ではなくなっている。

4 大阪高裁での2つの逆転敗訴

 国の大反転攻勢の結果、2015年10月29日の大阪高裁(6民・水上敏裁判長)で逆転敗訴の不当判決を受けた。原告はC型肝炎経由の肝臓がんを発症した被爆者であったが、争点は入市した日と態様のみ、1審も控訴審もこの点について審理がなされ、新たな証拠調べはなされなかった。C型肝炎を含む肝機能障害、がんは積極認定の対象である。ところが、高裁は、入市時期について一部、国の主張を容れたものの、原告が下痢等の放射線による急性症状を呈して相当の被爆をしたと認定しつつ、争点にもなっていなかったC型慢性肝炎の放射線起因性について、集団訴訟において積み重ねられてきた判決を無視した特異な判断をした(C型肝炎の放射線起因性については、東京高裁をはじめ、いくつもの判決が肯定してきた)。

 逆転敗訴のショックを打ち消すべく迎えた2016年2月25日の大阪高裁(7民・池田光宏裁判長)でも、再び悪夢のような敗訴判決を受けた。事実認定は争いなく、積極認定対象疾病とされる心筋梗塞も申請疾病とし基準よりも入市の時間が遅いだけであった。国は放射線に関してはまったく門外漢の東京医大の循環器内科教授を証人申請してきたが、弁護団は医師団の協力も得て、反対尋問で徹底してそのでたらめぶりを暴いた。しかし、判決は証言を無批判になぞって逆転敗訴判決を下した。

 弁護団は、これらの不当判決に対して上告し、現在、最高裁第一小法廷と第三法廷に係属している。

5 捲土重来を期して

現在、被爆者の平均年齢は80歳を超えた。70年を超える年月の経過は証拠を散逸させ、細かな記憶を減退させ、加齢による体力・気力の減退、加齢による白内障や成人病の発症など様々な障害が生じている。基準を機械的に適用して、基準からはみ出せば却下し、不服があれば訴訟を強いる、踏み切れない者には断念を強いる、国の恥ずべき態度は、唯一の被爆国のものではない。国の抵抗を打ち破り被爆者完全救済を勝ち取るためには、判決を梃子に、原発被災者や核兵器廃絶の運動と結んで世論を作り出して、政治を動かすしかない。そのために、すでに日本被団協が原爆症認定制度の抜本的改革案を出している。

 被爆者救済のための残された時間はもうない。

以上

 


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