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イナックスメンテナンス事件  
   最高裁で逆転勝利
               弁護士 愛須 勝也

1 2011年4月12日、最高裁判所第三小法廷(那須弘平裁判長)は、イナックスメンテナンス分会の労働組合性を否定した東京高裁判決を破棄し、会社(被上告人)の控訴を棄却する判決を下した。これによって、労働組合性を認めて会社に団交を命じた中央労働委員会命令が確定することになった。「個人請負」、「業務委託」などで働く人も、就労実態からみれば労働者といえるのであり、憲法・労働組合法で保障される団結権・団体交渉権が認められることを確認した画期的判決であった。

2 本件は、イナックスメンテナンス(以下「会社」という)から形式的に個人業務委託業者として扱われ、INAX製品の修理業務に従事している労働者ら(カスタマー・エンジニア。CE)が、組合に加入し、会社に団体交渉を申し入れたところ、会社はCEが個人事業主であり労組法上の労働者に当たらないとして団交申出を拒否した。これに対して、不当労働行為の救済命令を求めて争ったところ、大阪府労働委員会は、会社が団体交渉に応じないのは不当労働行為に該当するとして団交応諾命令を発し、中央労働委員会も会社の再審査命令を棄却する命令(本件命令)を発したため、会社がその取消を求めて提起した行政訴訟(不当労働行為命令取消請求事件)である。

3 東京地裁は、会社の請求を棄却したのに対し、東京高裁は、まったく審理をしないままで、修理依頼・発注に対して契約形式上、CEに諾否の自由があることから「法的な使用従属関係」を殊更に重視して労働者性を否定した。組合側の主張に対しては「社会の実情ないし経験則に照らしても合理的とは言い難い見解」などと批判したが、そこで述べられているのは「どこの会社のこと?」と首をひねりたくなるような代物であった。CEの実態を知る者からは読むに耐えない最低の判決であった。

  しかし、それまでの訴訟の経緯からしても、まさか東京高裁でひっくり返されるとは予想もしていなかっただけにショックは大きかった。私は、判決報告集会において、最高裁での逆転の可能性を聞かれて、「そう簡単に最高裁でひっくり返るものではない。でも、皆さんはここに書かれたことを認めるのか。ここまで書かれても仕方がないと認めるのなら最高裁でもひっくり返らない。しかし、こんなことを書かれて黙っておれるのか。もっと怒らないといけない。こんな判決は許されないという取り組みが出来れば逆転は十分可能。それくらい酷い内容の判決だ。」と訴えた。

4 最高裁は、@組織への組込み(休日は会社が指定するなど、CEは事業の遂行に不可欠な労働力として組織に組み入れられていたこと)、A契約の一方性(業務委託の内容は会社が一方的に決定した「覚書」によっていたこと)、B報酬が労務提供の対価であること(CEの報酬はその額の決定方法から労務の提供の対価としての性質を有しているといえること)、C契約履行責任(CEが依頼を拒否する割合は1%弱であり、基本的に会社による個別の修理補修等の依頼に応ずべき関係にあったこと)、D指揮命令と拘束性(CEは、全国的な技術水準確保のためCEとしての心構えや役割、接客態度等まで逐一記載された各種マニュアルの配布を受け、これに基づく業務の遂行を求められている等、CEは会社の指定する業務遂行方法に従い、その指揮監督の下に労務の提供を行っていたこと。業務について場所的にも時間的にも一定の拘束を受けていたこと)の点から、働き方の実態に基づいて判断し、労働者性を認定した。

 東京高裁が、働き方の実態をまったく見ずに判断したのに対し、最高裁は、これらの要素を契約形式ではなく就労実態にもとづいて事実認定を行い、東京高裁判決を破棄した。判決は、新しい基準を示した訳ではないが、労組法で保護されるべき「労働者」の要素を示してくれた。

5 最高裁は、本件と同じ日に、新国立劇場の合唱団員(日本音楽家ユニオン)に ついても、労組法よって保護されるべき労働者と認定して原判決を破棄して東京 高裁に差し戻した。

  これらの判決は、「個人事業主」契約であっても、労働法上の労働者性を認め、 団結権・団体交渉権を認めたもので実務的な意義は極めて大きい。

6 個人的な感想を言えば、9年前に、組合から一方的に発注停止されれば仕事がなくなり、収入がゼロになるという不安定な状態を何とかしたいということで学習会の講師をしたのが最初のかかわりであった。組合員は同じ制服を着て就業し、業務内容を定めた書類等を見れば見るほど、労働者性は明らかであった。最高裁で逆転勝訴できてほんとうに嬉しく思う。

 近年、労働者の非正規化が急速に進んだ。同時に「非労働者化」もすすめられ、労働者と同様の就労形態でありながら、個人事業主として扱って労働法制の規制を逃れようとする動きが広がり、個人請負型就労者は全国で120万人を超えると推計されている。個人請負労働者は、実態は労働者でありながら、労働法制による労働者保護の枠組みから外され、無権利状態で不安定な労働に従事している。

 最高裁が示した法的形式だけで労働者性を判断するのではなく就労の実態をみて実質的に判断すべきとの判断を、「委託契約」「個人事業主」を口実とした労働者性の否定の流れに歯止めをかけ、労働組合活動の意義を社会的に広げる重要な契機としていかなければならない。

  




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