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ヒューネットだいとう事件   
 大東市違法公金支出返還請求訴訟 控訴審でも勝訴
  弁護士 愛須 勝也

1 はじめに

 2011年9月8日,大阪高等裁判所(第10民事部・赤西芳文裁判長)は,ヒューネット大東事件(大東市違法公金支出返還請求訴訟)において,大東市の控訴を棄却する判決を下した。この裁判は,大東市の住民が,大東市長らを被告として,不公正な同和行政に支出した公金の返還を求めて提訴したものであり,本年2月2日,大阪地方裁判所(第2民事部)が「市長らに対し総額2539万0162円の請求をせよ」と命じていた。

2 事案の概要

(1)ヒューネット関係

 大東市は,同和行政に特別の法的根拠を与えていた特別法「地域改善対策特別事業にかかる国の財政上の特別措置に関する法律」の失効により解散する「大東市同和事業促進協議会(市同促)」の専任職員であったNを、市同促解散後に発足する「大東市人権教育啓発推進協議会」(通称「ヒューネットだいとう」)の常勤職員として採用する協定書をヒューネットとの間で締結した。Nは、「全日本同和会大阪府連合会大東支部」の役員で,市の同和行政に大きな影響力を有する人物であった。協定書では,Nは、午後からは,事務局長を務める「野崎人権協」に出勤するため、公務員でもないのに職務を免除され,午前中も野崎人権協からの申出を受けて職務免除を認めるとされた。大東市は,協定書の締結を主導し、Nの勤務実態がないことを知りながら,02年より5年間にわたり,毎年,ヒューネットに補助金を支出し,そのうちの約5割に及ぶ人件費(約800万円)がNの給与として支払われ,さらに,退職積立金が毎年30万円以上,積み立てられた。

(2)アルバイト職員関係

 また,大東市は,法的根拠のないまま,02年4月より3年半にわたって,同和会にアルバイト職員を派遣し,合計550万円のアルバイト料を公費で負担していた。

(3)同和行政終結の全国的潮流の中,特定の同和団体の利権のための公金支出は公益性がなく違法であるとの住民監査請求に対し,監査委員は,アルバイト職員について違法であることを認めたものの,ヒューネット関係については、Nが雇用されているのは,ヒューネットであり大東市ではないという形式的理由で請求を認めなかった。そこで,公金支出の返還を求め,訴訟提起したのが本件訴訟である。

3 カラ給与支払いのカラクリ

 もともと,Nは,市同促の常勤職員として大東市から給料を保障されていたが,市同促廃止により失職することが予定されていた。市は,同和行政の継続のためには,Nの専門的知識が必要であるとして,身分保障のための「スキーム」を作った。つまり,啓発団体としてヒューネットを設立し,専任職員としてNを雇用して従前の給与を保障したのである。ところで,Nは野崎人権協の事務局長を務めており,そこでの仕事を確保する必要があるという理由で,午後から職務免除を認め,午前中も,野崎人権協からの申出により,職務免除を認めてきた(申出をするのは事務局長であるNである)。実際には,ヒューネットは市の職員が事務局を担っており,Nは,月に数回,職務免除願いのハンコを押すためだけに事務所に来るだけであった。

 市は,雇用契約・本件協定書に先立ち、事前にNとの間で雇用条件を打合せ,市長はじめ市の幹部が市長室においてNに雇用条件の説明をし,ヒューネットの会長は事前には何の相談も受けていなかった。市は,Nの勤務実態を強調したが,それはヒューネット主催のイベントの際,司会をさせたり,駐車場整理などの仕事をさせたというだけであった(市は、「実績経験豊富」なNに役割を担ってもらおうと意図したと主張したが、その勤務実態を立証する証拠として出されたのは、イベントで「場内整理」の担当表のみであった)。

 一個人であるNの雇用のために市の幹部がそこまでしたのは何故か。Nは,同和会の役員を務め,市同促の専任職員として給与を支給されるとともに,市の同和行政に強い影響力を持っていた。そして,市同促からは,「地区委託事業契約」という形で,市内に存在する2つの地区協議会に補助金が支出されていた。これらの地区協議会の当事者団体が,部落解放同盟であり,全日本同和会であった。市同促は解散したが,大東市は,N及び同和会の強い要請により,引き続き,Nに経済的保障を行う必要に迫られたのである。市は、控訴審でも「ヒューネットと野崎人権協等は、実質上、市同促の事業を分担しているので、同一対である。」などの開き直った主張を繰り返した。

5 同和会への職員派遣は「勤務場所が同和会」という詭弁

 また、市の条例では,アルバイト職員は派遣できないことになっているのにもかかわらず,市はアルバイト職員を同和会に派遣していた。

 これに対して,市は,「当該アルバイト職員の同和会における業務はもっぱら大東市の仕事である」という詭弁を弄して,その正当化を図った。しかし,アルバイト職員が行っているのは,市の職務とは言えず,同和会の職務であることは誰の目にも明らかであった。しかも,同和会事務所には当該職員が1人いるだけで,同和会の常勤職員はいないという実態も明らかになった。加えて同和会事務所は市の施設である人権文化センターの中に入っており,そこには市の事務所があり市職員が常勤していたのである。市の主張の破綻は明らかであった。証言した市の担当書は,アルバイト職員派遣は,同和会の「就労対策」の意味があることを否定せず,癒着の構造を認めざるを得なかった。

5 判決の内容〜「悪質な脱法行為であり公序良俗に反し無効」

(1)協定は、「悪質な脱法行為であり公序良俗に反し無効」と断罪

 一審の大阪地裁は,原告の主張を全面的に認めた。

 とりわけ,「本件協定に基づく仕組みを全体としてみれば,Nが野崎人権協で実際に働いていようがいまいが,大東市からヒューネットを介して年間約800万円もの給与等が自動的に支給されるという非常に不合理なものとなっている」と判示した部分は,市民の感情に合致した極めて妥当な判断であった。

 本件協定については、「法の規定を潜脱する悪質な脱法行為であり、違法性の強いもので公序良俗に反し無効である」と判示し、市長らの共同不法行為に関しても,「ヒューネット自身においてNを非常勤職員として雇用する必要も意思もないのに,大東市が,ヒューネットを雇用主体として,Nに対し,非常に広範な職免除を認め,かつ,職務免除中の野崎人権協における勤務状況等も吟味することなく,市同促の事務局長時代と同等の給与等を保障するとともに,これを明らかにするためにあえて締結されたものである。そうすると,ヒューネット及びNは,岡本日出士(注:市長)らと共謀して,Nの人件費を不正に負担させることを意図して,本件協定及び本件雇用契約をそれぞれ違法に締結し,その結果,大東市からヒューネットに対する補助金を支出させ,損害を与えた」と認定した。

 アルバイト職員の派遣についても、「勤務場所が同和会」という詭弁を排斥して違法であると認定した。

(2)高裁判決は、控訴人の開き直りをことごとく排斥

 大東市は、控訴理由において、補助金支出は広範な裁量に属するので、経済的合理性のみで判断されるべきでないとか、Nをヒューネットの職員として採用したのは、あくまでも形式的なことで、実質上は野崎人権協において市の人権施策を実施するという「公益上の必要」のためであるという完全に開き直った主張をした。「同和」のためなら何でも「公益上の必要」が認められるという時代錯誤の主張である。市は、ヒューネットと野崎人権協は、市同促の事業を分担して担っているので実質的に同一体であり、野崎人権協で働いている以上、勤務実態はあるなどという呆れた主張を展開した。さらには、市政運営は多数の補助職員を信頼して処理することが許されているので過失がない、監査委員から何も言われなかったから義務違反はないなどと言いたい放題であった。

 これに対し、控訴審判決は、補助金の交付は目的・内容等を審査して事業が適正かどうか判断した上で行われるものであり、他の団体に流用されることを想定して補助金の交付をすることは法の予定するところでないと判示して、市の主張を一蹴し、「本件協定は、大東市が、市同促の解散後も事実上大東市の組織の一部であったとみられるヒューネットを介してNに対して従来と同等の給与等を保障するためのものであり、本件各補助金交付は、そのような本件協定の義務履行行為であった。したがって、本件協定は公序良俗に反して違法であり、本件各補助金交付行為は財務会計法規に違反するものである」と明快に判示した。

 また、アルバイト職員についても地裁判断を踏襲した。

6 本件訴訟の意味〜同和行政の終結のために

 市民生活が大変厳しい状況において,「カラ給与」問題は絶対に許せないというのが市民の声であった。市は,一人当たりの所得でみると大阪府下でも下位にあり,国保税の滞納率もワースト5に入るような状況にある。最近では,その矛盾が子どもたちや高齢者にも及び,児童虐待の発生は増えるばかりで,高齢者虐待による死亡事件も起こっている。市民感覚からしても,「仕事もせずに給与をもらっていることは許せない」と怒りが広がっていった。Nはヒューネットの雇用を継続することが出来ず、退職したが、ヒューネットは,事件が発覚してから,Nに対して1000万円以上の退職金を支払ってしまった。また,監査請求でも認められたアルバイト職員の同和会への派遣について全く返還させようとしなかった。さらに,Nは,ヒューネットを辞めてからも野崎人権協の事務局長を務め,ヒューネット時代には受け取っていなかった給料を受け取るようになっている(直接,給料名義の補助金は支出されていないが,人権協には大東市から業務委託費が支出されている)。返還相手が、大東市長となっているだけに、市は判決に対して上告することが予想されるが、判決をテコに運動と議会で追及を通じて、不正支出された公金の返還を求めていなければならない。





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