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1 はじめに
2023年9月27日,大阪地方裁判所第9民事部(達野ゆき裁判長)は,ノーモア・ミナマタ第2次近畿国賠訴訟(以下「近畿訴訟」)について,原告128名「全員」を水俣病と認め,被告である国,熊本県,チッソ株式会社ら(以下「被告ら」)に総額3億5200万円(各原告の損害一律250万円+弁護士費用25万円,計275万円)の支払を命ずる原告全面勝訴の判決(以下「本件勝訴判決」)を言い渡しました。
2 切り捨てられた原告ら
近畿訴訟の原告になったのは,メチル水銀に汚染された魚介類を多食して水俣病に罹患しましたが,その事実を知らないまま,集団就職などで,熊本県や鹿児島県の不知火海沿岸地域から関西や中京地域に移住して新たな生活を築いてきた人たちです。
また,水俣病というと,痙攣を起こして踊り狂うように苦しむ方を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし,水俣病の症状は,このような劇症型に限られるものではありません。原告の症状は,全身の様々なところに現れる神経症状です。一例を挙げると,手足の感覚がその末端に行けば行くほど鈍くなります。素手でも手袋をし素足でも靴下を履いているような感覚の異常を抱えています。
ところで,水俣病被害者救済特別措置法(以下「特措法」)という法律があり,「あたう限りの救済」が謳われているのですが,残念ながらオダイモクを並べ立てただけとなっています。@居住していたのが救済対象の地域外である(=熊本県水俣市の沿岸部など6市3町に居住歴がない)として救済されなかった人がいます。また,A生まれたのが救済対象の年代外である(=昭和44年11月末までの出生でない)として救済されなかった人もいます。そもそも,B県外に住んでいたことで水俣病の情報から遮断され特措法申請の機会を奪われて救済されなかった人もいます。「あたう限りの救済」と言いながらも,多くの被害者が切り捨てられたのです。近畿訴訟の原告は,いずれも取り残され,切り捨てられた被害者なのです。
3 ホコリのかぶった『古い知見』に固執する被告ら
県外居住者を含むすべての水俣病被害者の救済を実現すべく,われわれ弁護団は,被告らが机上の空論を並び立てて原告らを「ニセ患者」と言うのに対し,事実に基づき主張してきました。
紙幅の都合上,すべてを紹介できませんが,訴訟の過程で明らかとなった特措法による救済者の分布によりますと,非対象地域においても多数の水俣病被害者が救済されていました。この事実から「地域」による線引きが不合理であることは明らかです。
また,アセトアルデヒドの製造が1969年に停止されメチル水銀が排出されなくなったからといって不知火海のメチル水銀汚染がすぐになくなるわけもなく,「年代」による線引きが不合理であることもまた明らかです。
信じがたいことに,「水俣病が器質性疾患であるとすればこうなるはずである」などと,事実に基づかない机上の空論でもって,原告らを「ニセ患者」であると言っていたのです。被告国は,地裁判決を「国際的な科学的知見と相違」と評していましたが,大きな間違いです。被告国は,メチル水銀に汚染された魚介類を多食していた人たちから目を背けて,新たな調査も記録もしていません。ホコリのかぶった古い知見?に固執して,被害の事実に目をつぶり,被害者を切り捨てるための理屈として利用いたに過ぎません。
4 すべての水俣病被害者救済のために
水俣病が公式に確認された1956年5月から,67年が経っても救済を求める訴訟がいまだに係属しています。この異常な状況について,支援の方がよく使う言葉に「異常ではある。けれども,これはひとりの分断も許さなかった闘いの歴史でもある」という言葉があります。
本件勝訴判決は,原告「全員」を水俣病であると認めました。「分断」を作り出した環境行政の誤りを断罪するもので,画期的な意義を有します。すでに原告らは高齢となっており,早期の救済が不可欠です。この判決を力に,原告らはもちろんのこと,原告ら以外のすべての水俣病被害者救済のために,運動面でも「できることはすべてやる」をモットーに力を尽くします。引き続きのご支援をよろしくお願いします。
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